神戸地方裁判所 昭和59年(行ウ)7号 判決
原告
大竹貿易株式会社
右代表者代表取締役
大竹成正
右訴訟代理人弁護士
田宮敏元
香山仙太郎
被告
神戸税務署長
小池喜芳
右指定代理人
竹中邦夫
外五名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対し、昭和五七年三月三一日付けでした原告の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日まで(以下「昭和五六年三月期」という。)の事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも被告が昭和五七年八月六日付けでした再更正処分及び昭和六〇年一〇月三〇日付けでした再々更正処分による法人税及び過少申告加算税の各減額部分を除く。)を取り消す。
2 被告が、昭和五七年八月六日付けでした原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日まで(以下「昭和五五年三月期」といい、昭和五六年三月期の事業年度と合せて「本件係争各事業年度」という。)の事業年度の法人税の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも被告が昭和六〇年一〇月三〇日付けでした再々更正処分による法人税及び過少申告加算税の各減額部分を除く。)を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 課税処分に至る経緯等
原告は、輸出業を営む株式会社であるが、昭和五五年三月期及び昭和五六年三月期の各事業年度の法人税につき、法定期限内に、青色申告書により、別表1及び2の「確定申告」欄記載のとおり申告したところ、被告は、昭和五七年三月三一日付けで別表1及び2の「当初更正処分」欄記載のとおり、それぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
原告は、昭和五六年三月期の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「昭和五六年三月期の更正処分等」という。)につき、昭和五七年四月三〇日被告に異議申立てをしたところ、被告は、昭和五七年八月六日付けをもつて、右申立てを棄却すると同時に、同日付けをもつて、別表1及び2の「再更正処分」欄記載のとおり、それぞれ再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、昭和五五年三月期の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を「昭和五五年三月期の再更正処分等」といい、同処分等と前記昭和五六年三月期の更正処分等を合せて「本件各処分」という。)。
原告は、なお不服であつたので、昭和五七年八月二七日、本件各処分につき国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は、昭和五八年一二月一三日付けで右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
その後、被告は、別表1及び2記載のとおり本件係争各事業年度の法人税につき再々更正処分をした。
2 本件各処分の違法性
(一) 原告の海外顧客との輸出取引の概要は次のとおりである。すなわち、原告は、輸出商品を船積みのうえ、運送人から船荷証券の発行を受け、商品代金取立てのための為替手形を振り出し右船荷証券その他の書類を添付していわゆる荷為替手形とし、原告の取引銀行に右手形を買い取つてもらい右船荷証券等を右銀行に引き渡し、手形買取代金の交付を受けていたものである。
(二) 原告は、別表3及び4記載の輸出取引の販売による収益については、同表記載の「入金日」(実は船荷証券引渡日)の属する事業年度の益金に算入していたところ、被告は、別表3及び4記載の「船積日」の属する事業年度の益金の額に算入すべきものとして、別表1及び2記載のように本件各処分をしたものである。
(三) しかしながら、以下の理由から、右輸出取引による販売の収益を計上すべき事業年度は、被告主張の「船積日」の属する年度よりは、原告主張の「入金日」(船荷証券引渡日)の属する事業年度とする方が優れているのであるから、原告の前記各申告を本件各処分をもつて更正する理由はなく、この点を看過した本件各処分はいずれも違法である。
(1) 法人税法二二条四項は、収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準にしたがつて計算するとのみ定め、これを受けて法人税基本通達二―一―一(棚卸資産の販売による収益の帰属の時期)は「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあつた日の属する事業年度の益金の額に算入する」とし、同基本通達二―一―二(棚卸資産の引渡しの日の判定)は「右の場合において、棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、たとえば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなつた日、検針等により販売数量を確認した日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあつたものとすることができる。
① 代金の相当部分(おおむね五〇パーセント以上)を収受するに至つた日
② 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日」と規定している。
同基本通達二―一―一は、法律的には民法上のいわゆる意思主義を排除し、会計的には発送基準ではなく引渡基準が原則であることを明示したものである。そして、同基本通達二―一―二は、その引渡しの概念を拡大し、「引渡しの日」の中に、出荷の日、相手方が使用収益のできることとなつた日、検針等の日(土地にあつては代金受領日、登記申請日)まで含め、「引渡しの日として合理的である」限り継続性を条件として発送基準その他までも幅広くこれを認めている。
以上、要するに、法人税基本通達は、収益計上の基準とすべき合理的な日は単一ではなく、複数存在することを認め、その選択を法人の自主的意思に委ねていることが明らかである。
(2) 本件取引のように船荷証券が発行されている場合、運送品の処分は船荷証券によつてするのでなければこれをなしえず(商法七七六条(以下同条の引用省略)、五七三条)、船荷証券の引渡しは運送品の引渡しと同一の効力を有し(同法五七五条)、これと引換えでなければ運送品の引渡しを請求することができない(同法五八四条)のであつて、船荷証券を引き渡さない限り、商品を引き渡してはならないのである(同法七七二条ないし七七五条参照)。
さらに、荷送人又は船荷証券の所持人は運送人に対し、運送の中止、運送品の返還その他の処分を請求することができる(国際海上物品運送法二〇条二項、商法五八二条)のであつて、船積みによつて買主に対する引渡しが完了し運送品の所有権が移転するものではない。
このように、船荷証券は運送品を表彰するものであり、F・O・Bその他いかなる取引条件の契約であつても、船荷証券なくして運送品を受け取りうる慣習はない。
したがつて、原告が、商品を船積みし、船荷証券の発行を受けたのみではいまだ商品に対する所持・支配を失つてはおらず、前述のように荷為替手形を銀行に売り渡し、船荷証券を銀行に引き渡す(信託的譲渡)ことにより、はじめて輸出商品に対する所持・支配を失うにいたるものである。
そして、原告は、輸出商品の販売については船荷証券を取引銀行に引き渡した日をもつて、継続的に、その収益計上をしてきたものである。
そうすると、「船荷証券引渡日」(以下「為替取組日」ともいう。)をもつて、法人税基本通達にいう収益計上の合理的な日の一つということができる。
(3) さらに、以下の理由から、輸出取引の収益計上の基準として「船積日」よりは「船荷証券引渡日」の方が優れており、公正妥当な会計処理の基準として優れている。
ア 商品の輸出取引にあつては、国内販売と比較して商品の発送から検収まで距離的にも時間的にも著しい間隔があるのであるから、便宜的な発送基準(「船積日」を基準とする被告の主張はまさにこれである。)は、企業会計原則第一の一般原則六に定める保守主義の考え方すなわち予想収益は計上しないとの考え方に反するおそれがある。また相手方の国籍が異なり、適用法も国内法と異なるものがあつて代金回収の危険性は到底国内販売の比ではない。そして、企業会計原則は、売上高については実現主義を採用し、発生主義は採用していない(企業会計原則第二、損益計算書原則三B、一A)。この実現主義の見地からは、少しでも代金回取の確実な「船荷証券引渡日」基準の方が、「船積日」基準より販売基準としてより適している。
イ さらに、原告の輸出取引は、外貨特にドル建てによつており、他方会計処理は円で記入するのであるから船積日に売上げを計上するには、同日で円に換算しなければならない。ところで、法人税基本通達一三の二―二―一(昭和五四年直法二―三一改正後のもの)は、円に換算する基準として、売上げに対しては、取得時換算法に基づきその日における外国為替の電信売買相場の仲値又は電信買相場によつて換算することを要求している。船積みごとにこのような正しい電信売買相場等を調べ、これを円に換算して売上げに計上することは、多大の労力を要し、その煩に耐え得ないものである。仮に、船積日に正しい換算を行つたとしても、数日後に荷為替手形が取り組まれその時の実相場で円の入金があるから、取組日には必ず実際の入金によつて売上げを修正し為替差損益を修正しなければならない。これでは、船積日の円換算での売上げ計上は全く無意味であるばかりでなく、わずか数日のちがいで複雑な計算を二度も余分にしなければならず、不便である。
しかも、被告は、再々更正処分において円換算方法を電信売買相場の仲値に変更した(このこと自体は正しい。)が、その評価の時期をいずれも事業年度終了の時としていることは前記通達に反する。すなわち、同通達一三の二―二―一によれば、売上げ金額の円換算を行うのは法人がこれらの額として計上する日とされているところ、被告主張の船積日基準を採用するのであれば、船積日に円換算のうえ、売上げの計上をすることとなるが、前記再々更正処分においてはこれをしていない。すべて日本円で計上されるわが国の会計処理にあつては、ドル建て金額のままでは売上げに計上することはできず、円換算日が売上げの計上日にあたるといわなければならない。そうすると、被告主張の売上げの収益計上基準は、結局船積日基準ではなく、船積済期末基準とならざるをえないが、これは被告の主張自体矛盾であるばかりか、公正妥当な会計処理とはいえない。
(4) 最後に、被告主張の「船積日」は、法人税基本通達二―一―二にいう合理的な日の一つということはできない。すなわち、別表3及び4の「船積日」は、必ずしも現実の船積日を示すのではなく、船荷証券に「発行日」として記載された日を指すもので、しかも必ずしも実際の船荷証券の発行日でもない(商慣習で認められている。)のであつて、現実の船積日を確認することは事実上困難である。しかも、前記のような発券商品については、商品そのものより証券が重要であることからすると、「船積日」は前記基本通達にいう合理的な日の一つということはできない。
仮に、「船積日」が、前記基本通達にいう合理的な日の一つとしても、「船荷証券引渡日」も同基本通達にいう合理的な日の一つであるから、その選択が原告に委ねられている以上、被告主張の「船積日」を基準とすることを強制されることはない。
3 よつて、原告は、「船積日」を基準とした本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実について
(一)(二)の事実は認める。(三)のうち(1)の事実及び(2)の事実のうち原告が輸出商品の販売につき船荷証券を取引銀行に引き渡した日をもつて継続的に、その収益計上をしてきたことは認め、その余は否認又は争う。
3 同3の主張は争う。
三 被告の主張
1 本件課税の経緯について
(一) 原告は、資本金四〇〇〇万円の株式会社であつて、被告から青色申告書の提出の承諾を受けた法人税法二条一〇号に規定する同族会社である。
(二) 原告は、被告に対し、昭和五五年三月期及び昭和五六年三月期の法人税確定申告書をそれぞれの法定申告期限内である昭和五五年五月二九日及び昭和五六年六月一日に次のとおり提出した。〈編注・後掲①②表参照〉
(三) 被告は、原告が提出した確定申告書記載の所得金額及び税額等がその調査したところと異なつていたので、原告に対し昭和五七年三月三一日付けをもつて、次のとおりそれぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行つた。〈編注・後掲③④表参照〉
(四) さらに、被告は、右更正処分に係る所得金額及び税額等がその調査をしたところと異なつていたので、原告に対し昭和五七年八月六日付けをもつて、次のとおりそれぞれ再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行つた。〈編注・後掲⑤⑥表参照〉
(五) さらに、被告は、昭和六〇年一〇月三〇日付けをもつて別表1及び2の各「再々更正処分」欄記載のとおり本件係争各事業年度分の再々更正処分をし、右処分通知書は同月三一日原告に送達された。その理由は以下のとおりである。
(1)ア 被告は、昭和五五年三月期の再更正処分及び昭和五六年三月期の当初更正処分において、売上げの計上漏れ額(別表1の「再更正処分」及び別表2の「当初更正処分」の各「売上げの計上漏れ額」欄)の計算をする際、外貨建(ドル建)取引については、右各事業年度終了の時の対ドル電信売相場(昭和五五年三月期は二五〇・四五円及び昭和五六年三月期は二一一・六五円。)により円換算をなした。
イ また、被告は、本件係争各事業年度分の各再更正処分において、売上げの過大計上額(別表1及び2の各「再更正処分」の「売上げの過大計上額」欄)の計算をする際、外貨建取引については、当該各事業年度の直前の事業年度終了の時の対ドル電信売相場(昭和五五年三月期は二一〇・三〇円及び昭和五六年三月期は二五〇・四五円。)により円換算をなした。
(2) ところが、外貨建取引に係る円換算は、当該事業年度終了の時の電信売買相場の仲値によりなすべきものである(昭和五四年改正後の法人税基本通達一三の二―一―四。)。ただし、原告の昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度以前の事業年度においては、当該事業年度終了の時の電信買相場によりなすべきである(昭和五四年改正前の法人税基本通達一三の二―一―四及び昭和五四年一〇月一八日付け直法二―三一例規通達「法人税基本通達等の一部改正について」)。
(3) そこで、右円換算方法を適用すると、本件係争各事業年度分の売上げの計上漏れ額は当該各事業年度終了の時の対ドル電信売買相場の仲値(昭和五五年三月期は二四九・四五円及び昭和五六年三月期は二一〇・六五円。)、昭和五五年三月期の売上げの過大計上額は当該事業年度の直前の事業年度終了の時の対ドル電信買相場(二〇八・三〇円。)及び昭和五六年三月期の売上げの過大計上額は当該事業年度の直前の事業年度(昭和五五年三月期)終了の時の対ドル電信売買相場の仲値(二四九・四五円)により円換算すべきである。
(4) したがつて、昭和五五年三月期の再更正処分並びに昭和五六年三月期の当初更正処分及び再更正処分に係る外貨建取引の円換算方法は、前記(2)及び(3)の円換算方法と異なつていたので、被告は、昭和六〇年一〇月三〇日付けで、右円換算方法により本件係争各事業年度分の再々更正処分及びそれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれしたものである。
2 原告の所得金額について
原告の昭和五五年三月期及び昭和五六年三月期における所得金額の算出の内訳は、次のとおりである。
(一) 所得金額の算出の内訳表
〈編注・後掲⑦⑧表参照〉
(二) 右内訳表の説明
(1) 昭和五五年三月期
ア 売上げの計上漏れ
原告は、別表3「昭和五五年三月期末船積分」の「インボイス№」欄記載の輸出取引を行い、昭和五五年三月三一日までに相手方に当該輸出取引に係る商品を引き渡したにもかかわらず、同表「売上金額」欄記載の金額三億〇七六七万九四七八円を売上げとして収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。
イ 受取手数料の計上漏れ
原告は、本店を福井県武生市家久町四一番一号に置く訴外オリオンエレクトリックカンパニーリミテッド株式会社(以下「オリオンエレクトリック社」という。)から昭和五五年三月三一日までに受け取るべき手数料のうち、八三万二七六三円を収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。
ウ 価格変動準備金の積立限度超過額
被告は、原告が当期末に棚卸資産(商品勘定)に計上していた金額一七億五六〇九万五〇三八円のうち、別表3「昭和五五年三月期末船積分」の「仕入金額」欄記載の金額二億四六二三万九〇三二円を棚卸資産の金額から減算し、右金額を売上原価として当期の所得金額から減算した(オ参照)。
① (1)
昭和五五年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
三七八、六八七、一九七
一五〇、六三四、八〇〇
一二八、二二七、〇〇〇
一九、一四五、四〇〇
八、〇二九、二一三
一六一、七五〇、九〇〇
② (2)
昭和五六年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
二九二、九三三、〇七七
一一六、三三三、二〇〇
四〇、八〇九、〇〇〇
四、六二一、三五〇
一五、八一九、九四三
一〇五、一三四、六〇〇
そうすると、原告の当期末の棚卸資産の金額は一五億〇九八五万六〇〇六円となる。そこで、被告は、右金額に基づいて価格変動準備金の積立限度額を計算したところ、積立限度超過額四一八万五四四七円が生じたので、同金額を当期の所得金額に加算したものである。
エ 売上原価の過大計上
原告は、別表5「昭和五四年三月期末船積分」の「インボイス№」欄記載の輸出取引を行い、同表の「仕入金額」欄記載の金額六九七一万八〇〇〇円及び「輸出諸費用」欄記載の金額六六一万一七一二円の合計金額七六三二万九七一二円を当期において売上原価として損金に計上していたが、右合計金額は、昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度(以下、「昭和五四年三月期」という。)の売上原価として損金に計上すべきものであつて、当期の損金とは認められないから、被告は、右合計金額を当期の所得金額に加算したものである。
なお、右仕入金額及び輸出諸費用は、カで述べる売上げの過大計上に係る売上原価である。
オ 売上原価の計上漏れ
被告は、既にアで述べた売上げの計上漏れ三億〇七六七万九四七八円を所得金額に加算したことに伴い、同売上金額に係る売上原価として別表3「昭和五五年三月期末船積分」の「仕入金額」欄記載の金額二億四六二三万九〇三二円及び「輸出諸費用」欄記載の金額四〇〇六万九一六〇円の合計金額二億八六三〇万八一九二円を当期の所得金額から減算したものである。
カ 売上げの過大計上
原告が当期の収益に計上していた売上金額のうち、別表5「昭和五四年三月期末船積分」の「売上金額」欄記載の金額八二五〇万八四七四円は、既にエで述べた売上原価に係る売上金額であり、昭和五四年三月期の収益に計上すべきものであるから、被告は、右金額を当期の所得金額から減算したものである。
キ 受取手数料の過大計上
原告が当期の収益に計上していたオリオンエレクトリック社から受け取るべき手数料のうち、一一万六一五三円は昭和五四年三月期の収益に計上すべきものであるから、被告は、右金額を当期の所得金額から減算したものである。
(2) 昭和五六年三月期
ア 売上げの計上漏れ
原告は、別表4「昭和五六年三月期末船積分」の「インボイス№」欄記載の輸出取引を行い、昭和五六年三月三一日までに相手方に当該輸出取引に係る商品を引き渡したにもかかわらず、同表「売上金額」欄記載の金額五億四五六四万七八六六円を売上げとして収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。
イ 受取手数料の計上漏れ
原告は、オリオンエレクトリック社から昭和五六年三月三一日までに受け取るべき手数料のうち、一七三万七五一二円を収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。
ウ 販売手数料の計上漏れ
原告は、オリオンエレクトリック社及び本店を石川県加賀市大菅波町チ・五六番地に置く訴外オリオン電機加賀株式会社(以下「オリオン電機加賀」という。)から昭和五六年三月三一日までに受け取るべき販売手数料のうち、オリオンエレクトリック社分四七六万五八三七円及びオリオン電機加賀分一五三万五一〇六円の合計金額六三〇万〇九四三円を収益に計上しなかつたので、被告は、右合計金額を当期の所得金額に加算したものである。
エ AL-AIamiah に対する売上げの計上漏れ
原告は、昭和五六年三月三一日までにAL-AIamiah に売り上げた商品の売上代金のうち、三六八八万七三四二円を収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。
オ IC部品の売上げの計上漏れ
原告は、次表記載のIC部品の売上げ七九万四〇〇〇円を収益に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。〈編注・後掲⑨表参照〉
カ IC部品の棚卸資産の計上漏れ
原告は、次表記載のIC部品の仕入金額二三万六〇〇〇円を当期末の棚卸資産の金額に計上していなかつたので、被告は、右金額を当期の所得金額に加算したものである。〈編注・後掲⑩参照〉
キ 価格変動準備金の積立限度超過額
被告は、原告が当期末に棚卸資産(商品勘定)に計上していた金額二三億八七三八万六七七九円のうち、別表4「昭和五六年三月期末船積分」の「仕入金額」四億四二五六万八〇五一円を棚卸資産の金額から減算し、右金額を売上原価として当期の所得金額から減算し(ケ参照)、IC部品の棚卸資産の計上漏れとして二三万六〇〇〇円を当期の所得金額に加算した(カ参照)。
そうすると、原告の当期末の棚卸資産の金額は一九億四五〇五万四七二八円となる。そこで、被告は、右金額に基づいて価格変動準備金の積立限度額を計算したところ、積立限度超過額六一九万二二三三円が生じたので、同金額を当期の所得金額に加算したものである。
ク 売上原価の過大計上
被告は、原告が当期に損金に計上していた売上原価の金額のうち、別表3「昭和五五年三月期末船積分」の「仕入金額」欄記載の金額二億四六二三万九〇三二円及び「輸出諸費用」欄記載の金額四〇〇六万九一六〇円の合計金額二億八六三〇万八一九二円を既に(1)のオで述べたとおり昭和五五年三月期の売上原価として、同期の所得金額から減算したので、右合計金額を当期の所得金額に加算したものである。
ケ 売上原価の計上漏れ
被告は、既にアで述べた売上げの計上漏れ五億四七四〇万二二〇四円を所得金額に加算したことに伴い、同売上金額に係る売上原価として別表4「昭和五六年三月期末船積分」の「仕入金額」欄記載の金額四億四二五六万八〇五一円及び「輸出諸費用」欄記載の金額三六〇七万九一八〇円の合計金額四億七八六四万七二三一円を当期の所得金額から減算したものである。
コ 未納事業税の認容
被告がした昭和五五年三月期の再々更正処分に伴い、原告が納付することとなる事業税の金額二七〇万〇〇六〇円を当期の所得金額から減算したものである。
サ 売上げの過大計上
被告は、原告が当期の収益に計上した売上金額のうち、別表3「昭和五五年三月期末船積分」の「売上金額」欄記載の金額三億〇七六七万九四七八円は既に(1)のアで述べたとおり、昭和五五年三月期の売上げとして同期の所得金額に加算したので、右金額を当期の所得金額から減算したものである。
シ 受取手数料の過大計上
被告は、原告がオリオンエレクトリック社から昭和五五年三月三一日までに受け取るべき手数料のうち、八三万二七六三円を既に(1)のイで述べたとおり昭和五五年三月期の受取手数料として同期の所得金額に加算したので、右金額を当期の所得金額から減算したものである。
ス 価格変動準備金戻入益の過大計上
被告は、原告が当期の収益に計上していた価格変動準備金の戻入れ額二九八五万三〇〇〇円のうち、四一八万五四七四円を既に(1)のウで述べたとおり、昭和五五年三月期の価格変動準備金の積立限度超過額として、同期の所得金額に加算した。
そこで、右加算したことに伴い、原告が当期の収益に計上していた右戻し入れ額が四一八万五四四七円が過大となつたので、被告は、右金額を当期の所得金額から減算したものである。
3 原告の同族会社の特別税率について
法人税法二条一〇号に規定する同族会社は、同法六七条の規定により各事業年度の留保金額が留保控除額をこえる場合には、そのこえる部分の金額に一定の割合を乗じて計算した金額を各事業年度の所得金額に対する法人税の額に加算することとされている。
そこで、被告は、原告が右同族会社に該当するので、本件各再更正処分後の留保金額を基礎として法人税法六七条の規定に従つて計算したところ、次のとおりとなる。
(一) 昭和五五年三月期
課税留保金額 一億三一六四万七〇〇〇円
右に対する税額 一九八二万九四〇〇円
(二) 昭和五六年三月期
課税留保金額 五五八六万七〇〇〇円
右に対する税額 六八八万〇〇五〇円
4 本件各処分の適法性
(一) 法人税法の売上計上基準
法人の所得金額の計算上益金の額に算入すべき金額は「当額事業年度に属する収益の額」という期間的限定を伴つた収益の額である。
ところで、法人の収益及び費用をどの年度において計上すべきかについては、現金主義と発生主義の二つの考え方がありうるが、今日の複雑化した経済社会においては、信用取引が支配的で多数の債権・債務が同時に併存し、現金主義によつては企業の期間損益を正確に把握することが困難であるため、企業会計上は、発生主義によつて損益を認識すべきものとされている(企業会計原則第二、損益計算書原則一)。法人税法は、この点について一般的な定めを置いていないが、法人税法二二条四項において「当該事業年度の収益の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」旨が規定されていることから、法人所得の計算についても発生主義すなわち、財貨の移転や役務の提供などによつて債権が確定したときに収益が発生するとする権利確定主義が妥当する。
③ (1)
昭和五五年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
過少申告加算税額
三七九、〇四七、一九七
一五〇、七七八、八〇〇
一二八、二八七、〇〇〇
一九、一五七、四〇〇
八、〇二九、二一三
一六一、九〇六、九〇〇
七、八〇〇
④ (2)
昭和五六年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
過少申告加算税額
四一三、七八八、五六〇
一六四、六七五、二〇〇
六一、〇一七、〇〇〇
七、六五二、五五〇
一五、八一九、九四三
一五六、五〇七、八〇〇
二、五六八、六〇〇
そして法人税基本通達二―一―一においては、棚卸資産の販売による収益の額は、当該棚卸資産の引渡しがあつた日の属する事業年度の益金の額に算入するとし、収益計上の認識基準は対象物の「引渡し」にあるとしている。
(二) 貿易慣習について
(1) 原告は、海外顧客との輸出取引において、貿易条件(Tra de Terms)をF・O・B、C・&・F及びC・I・F条件により契約を締結し、同取引条件のもとに商品を輸出販売している。
右F・O・B、C・&・F及びC・I・F条件は、「貿易条件の解釈に関する国際規則(International Rules for the Interpretation of Trade Terms)」(以下「インコタームス」という。)に採択された貿易慣習の定型となる貿易条件の主たるものの形態の一つである。右インコタームスは、パリに本部を有する国際商業会議所が国際間の商取引の円滑化を図ることを企図して国際的に貿易条件の解釈を統一したものであり、右国際商業会議所がインコタームスに採択した定型貿易条件の主なものは次のとおりである。
ア 積地売買を条件としたもの
(ア) 「工場渡」条件(EX Works)
(イ) 「鉄道渡」条件(F・O・R)
(ウ) 「船側渡」条件(F・A・S)
(エ) 「本船渡」条件(F・O・B)
(オ) 「運賃込」条件(C・&・F)
(カ) 「運賃保険料込」条件(C・I・F)
(キ) 「輸送資済」条件
イ 揚地売買を条件としたもの
(ア) 「着船渡」条件(EX Ship)
(イ) 「埠頭渡(関税込)」(EX Quay)
(2) ところで、原告が輸出取引条件としているF・O・B、C・&・F及びC・I・F条件は、貿易慣習として次のとおり解されている。
ア F・O・B条件
船積港(輸出港)における本船への約定品引渡し(FOB delivery)に基づき、本船渡し値段(FOB price)が採算・算定され、それを中心に売買契約が結ばれる慣例の貿易条件を指す。
イ C・&・F条件
輸出港における船積渡しの原価に、外国仕向地までの運賃をとくに加算した複合価格採算の貿易条件である。これは、買手側において、既に海上保険を付けた物品、又は付保すべき予定の物品を、C・I・F条件で売買しようとする場合に採用されるので、保険に関する事項をのぞけば、すべてC・I・Ftermsの原則による。
ウ C・I・F条件
「運賃保険料込み条件」をあらわす貿易条件をいう。それは、目的物の船積港における輸出原価に、仕向地までの保険料と運賃を併算した複合価格で取り決められ、売手は、自己の費用と危険で約定品を船積みし、それに保険を付け、その船積書類を完整してこれを買手に提供することによつてその義務をはたし、また買手は、その船積み以後の危険を負担し、船積書類と引替えに代金を支払うことにより、その義務を履行することを契約内容とする。
(3) さらに、貿易慣習としては、契約の指定地において、指定運送人に対する売手の約定品引渡しは、他に別段の定めがないかぎり、それは「買手への引渡し」と推定され、この占有移転は、無条件又は条件付きで、所有権の移転に移行するものとみなされる。この意味から貿易品の原則的な受渡し条件は、船積み条件として表現される。そして、F・O・B条件は輸出港での本船渡しゆえ、約定品の受渡しは文字どおり「船積渡し」である。またC・I・F条件も売手が送付義務をもつので、その引渡しは本船への「船積渡し」である。この両者は同じ積地での引渡しであるが、F・O・Bは、運送契約を結び、運賃を払い、船荷証券を得るのは、原則として買手であるのに反し、C・I・Fでは、それは売手の当然の義務であるところに、相違があるにすぎないと解されている。
(三) 輸出取引における売上計上の会計慣行
(1) 船積日基準
輸出商品等の所有権が売主から買主へ移転する時期は、F・O・B取引にあつては、船積みの時であるが、原告の採用するF・O・B取引並びにC・&・F取引及びC・I・F取引にあつては、船積みにより、所有権は条件付きで移転し、船荷証券を含む船積み書類の引渡しにより、船積みの時に遡及して所有権が移転すると解されているところ、船積日基準は、商品の船積完了日に輸出売上収益を計上するもので、実務上広く採用され、支持されている(実務上、輸出取引の収益計上基準としては①出庫基準(物品の出庫日に売上げを計上する方法、②通関基準(税関を通過した日に売上げを計上する方法)、③船積日基準が採用されているが、国際的に一般的に採用されているのは右③の船積日基準とされており、為替取組日基準は、実務上一般に採用されていない。)
右船積日基準が、採用、支持されている理由は次のとおりである。
ア 現在の輸出取引にあつては、輸出者が、船荷証券の買取りを銀行に依頼するに際し、荷為替手形を取り組むのである。そして、当該荷為替手形の買取りを、輸出の相手先に拒絶されないために、輸出相手先の取引銀行に、当該荷為替手形の買取りを当該銀行が保証する信用状をあらかじめ発行してもらうのである。
よつて、信用状を基礎とする取引にあつては、輸出者は輸出代金の回収の危険から解放されるとともに、荷為替の買取りによる運転資金の調達が可能になる。
また、海上保険制度を中心とする遠距離輸送危険の回避、転嫁によつて貿易取引が円滑に行われる。為替銀行の輸出為替買取りが円滑に運ぶのも、信用状や海上保険証券が船積書類に含まれていることなどによる。
イ そして、これらの貿易取引についての安全性を保証する諸条件の成熟によつて、引渡し条件の完全達成を待つことなく、船積みという現実的引渡し状況のもとで輸出売上収益を計上することが容認されていると理解することができる。
つまり、右に述べた輸出取引に係る諸制度の発達のため、売主は輸出商品の船積みによつて、実務上は回収の危険性のない確定的な売上債権を取得したのと同様の状態となり、その結果、船積みにより売上収益は実現したのと同様となるのである。
ウ さらに、船積日は貿易取引において、売主と買主との間の契約により、履行期限が定められている。また輸出の際には船会社等の運送業者を利用することが通例であり、当該運送業者に輸出商品を引き渡すと、当該事実の証拠として、船積日等を記載した船荷証券の交付を受ける。
したがつて、売上計上基準として船積日基準を採用する場合には客観性が保たれ、また恣意性の入る余地は少ない。
エ そして、実務上一般に採用されている船積日基準は企業会計原則第二、損益計算書原則三Bにいう実現主義とも矛盾せず、また(一)で主張した法人税法上、所得の計算方法として妥当するとされている権利確定主義にも反しない。この点からも船積日基準は健全な会計慣行といえ、さらに、一般に公正妥当と認めらる会計処理の基準であるので、法人税法上、売上計上基準として認められているところである。
(2) 為替取組日基準(船荷証券引渡日基準)
ア 積地売買条件における売上計上基準としての為替取組日基準は、一種の回収基準と同様の考え方であるが発生・実現主義の観点から問題が残る。
船積みにより船会社から交付を受けた船荷証券は、一般的には船荷の権利者の記名はなく、「指図人又はその譲受人」(to order or their assigns)と記載され、裏書譲渡によつて流通のできる指図式船荷証券(to order B/L)である。なお、原告の場合も、船会社から入手した船荷証券は、この指図式船荷証券である。
このため、当該船荷証券を入手した後は、銀行へ当該船荷証券を持ち込み現金化する方法を採らず、他に転売することも可能となる。
なお、売主は輸出商品の船積みにより、船会社から当然に船荷証券の交付を受けるのである。
したがつて、船積みにより売上債権は確定し、売上収益も実現するのである。しかるに、為替取組日基準により売上収益を計上することは、右理由により、貿易取引の実態とはかけ離れたものとなり、発生・実現主義には合致しないと解される。
また、荷為替手形を銀行で取り組む行為は売主・買主間の契約における、実際の商品の引渡しとは離れ、売主が比較的自由に決定することができ、これを利用することにより「期間損益」の調整が可能となり恣意性の入る余地が多いところから、為替取組日基準は、実務上一般に採用されているとはいえない。
イ 本件輸出取引において、原告が恣意により荷為替取組日を調整していた徴表は以下のとおりである。
すなわち、原告が銀行で荷為替手形を取り組んだ日は、別表6ないし14のとおり船積日と同日のものもあれば、極端なものは船積日から約五か月を経過した日のものもあり、輸出取引の一連の流れのうち、船積みから売上代金の回収に至る期間について全く統一性がない。
⑤ (1)
昭和五五年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
過少申告加算税額
三九九、八五五、〇四四
一五九、一〇二、〇〇〇
一三一、七六六、〇〇〇
一九、八五三、二〇〇
八、〇二九、二一三
一七〇、九二五、九〇〇
四五〇、九〇〇
⑥ (2)
昭和五六年三月期
項目
金額(円)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
所得金額
①に対する法人税額
課税留保金額
③に対する法人税額
控除所得税額等
差引合計法人税額(②+④-⑤)
過少申告加算税額
三八三、六九七、五七八
一五二、六三八、八〇〇
五五、九八五、〇〇〇
六、八九七、七五〇
一五、八一九、九四三
一四三、七一六、六〇〇
一、九二九、一〇〇
この点で原告が後記反論において主張するとおり、保険証券等をそろえるにしても、また、信用状の有効期限があるにしても、なぜ、自己の商品を自己以外の第三者の管理下に移す輸出取引において、その中心たる行為である船積みを早い時期に行つたものが、後で船積みされたものよりも遅れて荷為替手形の取り組みをし、現金化するため銀行に持ち込まれている場合があるのか、合理的な理由は見いだせない。
さらに、別の観点から見れば、船積みにより既に原告の手許を離れ、原告の管理下にない商品のうち、あるものは売上げとして計上されており、また、あるものはいまだ在庫品として棚卸資産に含められ、売上としては計上されていない。
かかる事実に対して、原告の恣意が全く介入していないとする理由は見いだせず、これらの事実の原因は原告が恣意により荷為替取組日を調整していたためであるとしかいいようがない。
(3) 以上の理由により、為替取組日基準をもつて、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準と到底いうことはできず、法人税法上、売上計上基準とは認められない。
(四) さらに、租税法の目的である租税の公平負担の原則に沿うためにはすべての納税者に画一的かつ統一的に取り扱う必要があり、そのためには単なる会計事実をもつてしては不十分であるから、税法が法である以上、可能な限り明確な基準としての法的基準が要請されるのである。
そこで所得概念を法律的に把握すれば、仮に当該資産の所有権の移転がなくても、現実に納税者が経済的利益を事実上、支配し享受しているとき、つまり社会通念上「権利」を有していると認められるような客観的事実の存するときに、そこに担税力がある経済的利益が認められるのであり、そして、右利益が納税者に享受されているとみられるときに、法的支配すなわち「引渡し」があつたと認め得るのである。換言すれば、「引渡し」とは販売意図の存在及びそのための具体的行為をあらわす正常な経営活動の表示であり、所得を生ずべき権利の所得実現の蓋然性が高まり、その実現が確実になつたといいうる状態に達したと客観的に認められるにいたつたことをいうものと解すべきである。
これを本件にあてはめると、本件商品が船積みされて、貿易業者である原告の管理し得ない状態になり、売主は自己の給付義務を完了し、商品の占有移転により売主の代金債権は確定し、その時に収益が実現したと認められるのである。
なお、貿易に関する条件であるF・O・B、C・I・F、C・&・Fは、いずれも売主と買主との間において、いずれが「危険負担による損害」を負担するかという区分をしているので、売主の危険負担の関係で「船積み」によつて収益が実現したといえるか疑問もあるが、現在においては発達した海上保険制度が存し、原告も右保険制度による保障を享受しているのであるから、原告はいずれの条件によつても商品の船積みによつて代金債権が事実上既に確定しており、右船積日から常に後に発生する荷為替手形取組日まで収益計上時期を遅らせる理由は全く存しないのである。
したがつて、原告(商品の売主)は、右にいう「引渡し」すなわち「船積み」によつて、危険負担から解放された本件商品にかかる代金債権を取得する。
(五) 以上要するに、貿易慣習、会計慣行、法人税基本通達等を総合すると、本件輸出取引による販売収益を計上すべき事業年度は、「船積日」の属する事業年度とすべきであり、「船荷証券引渡日」の属する事業年度とすべきではない。
(六) 本件各処分の計算根拠について
原告は、本件輸出取引について収益計上の基準として、別表3ないし5の「入金日」欄記載の日すなわち「船荷証券引渡日」を継続して採用していた。
ところで、原告の本件輸出取引は、別表3及び4の「取引条件」欄記載の「FOB、C&F、CIF」の各取引条件によつて行われており、右取引条件によると、既に述べたとおり、輸出商品の引渡しは「船積日」において完了したものであると解されるところ、本件輸出商品は別表3及び4の「船積日」欄記載の日において船積みされたものであり、同日右商品の引渡しは完了して収益が実現したものであるから、右取引に基づく収入は同日を含む事業年度の益金の額に算入すべきである。
したがつて、被告は、右判断に基づいて、次のとおり本件再更正処分をしたもので何ら違法はない(以下の金額は再々更正処分により減額されたものを示す。)。
(1) 売上げの計上漏れ
昭和五五年三月期 三億〇七六七万九四七八円
昭和五六年三月期 五億四五六四万七八六六円
被告は、前述のとおりの見解に基づいて、原告が別表3及び4の「入金日」欄記載の日に収益計上していた売上金額が、同表のそれぞれの「船積日」に売上金額を計上すべきであつたので、昭和五五年三月期に別表3の「売上金額」欄記載の合計額三億〇七六七万九四七八円を、昭和五六年三月期に別表4の「売上金額」欄記載の合計額五億四五六四万七八六六円をそれぞれ所得金額に加算したものである。
(2) 受取手数料の計上漏れ
昭和五五年三月期 八三万二七六三円
昭和五六年三月期 一七三万七五一二円
その根拠は、前述のとおりである(三2(二)(1)イ、同(2)イ参照)。
(3) 価格変動準備金の積立限度超過額
昭和五五年三月期 四一八万五四四七円
昭和五六年三月期 六一九万二二三三円
価格変動準備金の積立額は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)五三条の規定により、当該事業年度末の法人税法二条二一号に規定する棚卸資産の額又は当該事業年度の所得金額を基準として計算することとされている。
被告は、原告の棚卸資産の額から前記(1)で述べた売上金額に対応する売上原価の額を後記(5)のとおり損金の額に算入したので、原告が本件各係争事業年度末に計上していた棚卸資産については右損金の額と同額が減少した。そこで、被告は、右減少後の棚卸資産の額を基準に価格変動準備金の積立限度額を計算したところ、本件係争各事業年度末の原告が計算した価格変動準備金の積立額は、右積立限度額を超過していたので、昭和五五年三月期に四一八万五四四七円を、昭和五六年三月期に六一九万二二三三円を同超過額として所得金額に加算したものである。
(4) 売上原価の過大計上
昭和五五年三月期 七六三二万九七一二円
昭和五六年三月期 二億八六三〇万八一九二円
本件輸出取引の商品の引渡しは、「船積日」に完了して収益が実現したものであるから、後記(6)に述べる売上げに対応する売上原価は損金とは認められないので、昭和五五年三月期に別表5の「仕入金額」欄記載の合計六九七一万八〇〇〇円と「輸出諸費用」欄記載の合計六六一万一七一二円との合計額七六三二万九七一二円を、昭和五六年三月期に別表3の「仕入金額」欄記載の合計二億四六二三万九〇三二円と「輸出諸費用」欄記載の合計四〇〇六万九一六〇円との合計額二億八六三〇万八一九二円をそれぞれ所得金額に加算したものである。
(5) 売上原価の計上漏れ
昭和五五年三月期 二億八六三〇万八一九二円
昭和五六年三月期 四億七八六四万七二三一円
その根拠は、前述のとおりである(三2(二)(1)オ、同(2)ケ参照)。
(6) 売上げの過大計上
昭和五五年三月期 八二五〇万八四七四円
昭和五六年三月期 三億〇七六七万九四七八円
その根拠は、前述のとおりである(三2(二)(1)カ、同(2)サ参照)。
(7) 受取手数料の過大計上
昭和五五年三月期 一一万六一五三円
昭和五六年三月期 八三万二七六三円
その根拠は、前述のとおりである(三2(二)(1)キ、同(2)シ参照)。
(8) 未納事業税の認容
昭和五六年三月期 二七〇万〇〇六〇円
本件昭和五五年三月期の再々更正処分に伴い、昭和五六年三月期において納付すべき事業税二七〇万〇〇六〇円が増加したので、右事業税の額を所得金額から減算したものである。
(9) 価格変動準備金戻入益の過大計上
(一)
所得金額の算出の内訳表
⑦ (1) 昭和五五年三月期
項目
金額(円)
摘要
①
更正処分所得金額
(加算金額)
三七九、〇四七、一九七
1の(三)の(1)の①
②
売上げの計上漏れ
三〇七、六九九、四七八
2の(二)の(1)のア参照
③
受取手数料の計上漏れ
八三二、七六三
2の(二)の(1)のイ参照
④
価格変動準備金の積立限度超過額
四、一八五、四四七
2の(二)の(1)のウ参照
⑤
売上原価の過大計上
七六、三二九、七一二
⑧の売上原価 2の(二)の(1)のエ参照
⑥
加算金額計
(②+③+④+⑤)
(減算金額)
三八九、〇二七、四〇〇
⑦
売上原価の計上漏れ
二八六、三〇八、一九二
②の売上原価 2の(二)の(1)のオ参照
⑧
売上げの過大計上
八二、五〇八、四七四
⑤の売上げ 2の(二)の(1)のカ参照
⑨
受取手数料の過大計上
一一六、一五三
2の(二)の(1)のキ参照
⑩
減算金額計(⑦+⑧+⑨)
三六八、九三二、八一九
⑪
所得金額(①+⑥+⑩)
三九九、一四一、七七八
1の(四)の(1)の①
価格変動準備金の金額は、措置法五三条一項の規定により、右準備金の積立額は当該積立てをした事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入し、同積立額は、同条三項の規定により、その翌事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することとされている。
したがつて、被告は、昭和五五年三月期に価格変動準備金の積立額について、前記(3)で述べたとおり同積立限度超過額四一八万五四四七円を所得金額に加算したので、昭和五六年三月期には、右準備金の戻入益が同金額過大に計上したことになつたことにより、同金額を所得金額から減算したものである。
5 よつて、被告が船積日基準により国税通則法二四条、六五条一項に基づいてした本件各処分はいずれも適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1(一)ないし(四)の各事実及び(五)の事実のうち被告が再々更正処分をしたことは認める。
2 同2のうち(二)(2)ウエオカの各事実は認め、その余は否認又は争う。
3 同3の主張は争う。
4 同4のうち(二)(1)(2)を除くその余の主張はいずれも争う。
5 同5の主張は争う。
五 原告の反論
1 被告は、収益計上基準につき、原告主張の荷為替取組日基準(正確には「船荷証券引渡日基準」であるが、それが荷為替手形取組と同時に行われることから便宜上、被告において「荷為替手形取組日基準」と呼んだものである。以下両用語を適宜使用する。)においては、為替手形を銀行で取り組む日を早めたり遅らせたりして、いわゆる「期間損益」の調整が可能となり、損益が恣意的に操作できるので、法人税法上の収益計上基準とは認められないと主張するので、以下反論する。
(一) まず、被告は、会計事実と会計事実に対する認識とを混同している。
すなわち、荷為替を取り組むこと、船積みをすることはいずれも会計事実である。収益計上基準は、そのどちらの会計基準をもつて収益の実現と認識するかという問題である。そして、会計事実たる行為をするかどうか、いつするかは認識以前の問題である。したがつて、会計事実たる行為(荷為替手形を取り組む行為)が妥当であるか(期間損益の調整になるか)という問題と、会計事実(荷為替手形を取り組む事実)が「売上げという収益実現」と認識されうるかという問題とは全く次元の異なる問題である。合理的であるかどうかという認識の妥当性の基準は、認識そのものによつて判断されるべきでその前提である会計事実の妥当性によつて判断されるべきものではない。
(二) 被告は、会計事実たる荷為替手形取組を遅らせることは、「期間損益」を調整すると主張するが、右は故意に商品を売却しないのは不当に利益を減少させるものであるとの法人税回避行為の主張が根底にあるものと理解される。しかし、右は法人税法五条、二二条一項に反する。つまり、法人税は収益に対して課されるもので、収益の可能性に課されるものではない。原告会社の事業年度の最終日である三月三一日以前に取り組める荷為替手形を取り組まなくても、不当に利益を減少するものではなく、これを四月一日以降に取り組んでも「期間損益」を調整したことにはならない。
(三) 荷為替手形の取組日を、早めたり遅らせたりすることはできない。
まず、荷為替手形を銀行で取り組めるのは、船荷証券その他がすべてそろつたときであつて、これ以前に取組日を早めることは物理的に不可能であることから被告の取組日を早めるとの主張は失当である。
次に、以下の理由から、右取組日を遅らせたりすることもない。すなわち、信用状には、通常、船積期限、書類呈示期限、有効期限が記載されるものであり、書類呈示期限が明示されていないときは、荷為替信用状に関する統一規則及び慣例――(Uniform Customs and Practice for Credits――以下「統一規則」という。)四七条aに定めるとおり、信用状の有効期限を限度として、運送書類発行日後二一日が書類呈示期限となり、これを過ぎると荷為替の取組みが拒絶されることとなつている。右を、別表3昭和五五年三月船積分のインボイス№1122に基づき説明すると、船積期限一九八〇年六月三〇日、有効期限同年七月一五日であるので、荷為替取組期限は同年三月二七日から二一日目の同年四月一五日と右有効期限である同年七月一五日のうちいずれか早い方すなわち同年四月一五日となる。これを同日以降に遅らせることはできない。そして、事実は同表記載のとおり、船積日は同年三月二七日、荷為替取組日は同年四月七日である。さらに、原告には荷為替手形を期限を待たずに取り組む必要がある。すなわち、右インボイス№1122を例にとれば、その売上金額は三三五〇万九二〇八円、直接原価(仕入原価と諸費用の合計)は三〇七三万一三四七円でその差益は二七七万七八六一円にすぎない。この法人税等を五〇パーセントとしてその金額は一三八万八九三〇円で、これを一年遅らせても金利六パーセントで計算すると八万三三三五円の企業利益となるにすぎない。間接原価はもとより、直接原価も既に費消されているのであるから、一日も早くこれを回収し、仕入先である訴外オリオングループ各製造工場に支払わないと原告は勿論、右製造工場その下請工場等の資金面がゆきずまるおそれがないとはいえない。このように原告は、一日も早く荷為替手形を取り組む立場に立たされている。事実、原告は、別表3ないし5のすべての取引において故意に荷為替手形の取り組みを遅らせたことはない。
(四) さらに、どのような収益基準を採用しても、その基準を変更しない限り、その各「期間損益」は正常である。そもそも、「期間損益」は企業継続を前提とするものであつて、それを一定の会計期間に区切るものではあるが、同内容の会計事実につき同じ売上げの認識をしてはじめて、その「期間損益」を正しいものと評価し、各期間の成績を比較しうるものである。例えば、前期において船積日基準を採用し、当期において荷為替取組日基準を採用する、あるいはその逆ならば、「期間損益」は被告主張のように恣意により調整されたということができるが、原告は企業会計原則第一、五にしたがい、荷為替取組日基準を継続して採用しているのであるから、「期間損益」を調整したとはいえない。
(五) 被告は、別表6ないし14を引用して、船積日と荷為替手形取組日との関係につき、同日のものから約五か月経過しているものまでその期限に統一がなく、このような事象は不合理で恣意が介入していると主張する。
しかし、早く船積みしたものが、早く荷為替手形を取り組めるとは限らない。このようなことは一年を通じて起ることで、被告主張のように事業年度末の期間だけではない。そして、事業年度途中に右のようなことがあつても期間損益は変らないのであるから、別表6ないし14を引用しての被告の主張は失当である。
船積みから約五か月後に荷為替手形を取り組んでいる(インボイス番号K―8663等)事情は以下のとおりである。すなわち、右は、レバノン及びイラン向けの商品であり、当時レバノン及びイランは戦争状態であつたため、荷為替手形は取り組んでもらえず、東京銀行に船荷証券等書類一切を預けその取立てを依頼していた。五か月後になつて、やつと同書類の引渡しとともに代金受領があり、同銀行から代金取立手形代り金計算書とともに原告に入金があつた。原告は、買主にいつ船荷証券の引渡しがあつたかは、同計算書によつてはじめて知つたもので、このときをもつて収益が実現したものとして計上した。したがつて、右処理も船荷証券引渡日基準にしたがつたものである。
2 被告は、F・O・B取引等にあつては、船積みにより輸出商品の所有権は条件付で移転し、船荷証券等の引渡しにより船積みのときに遡及して所有権が移転すると主張するので、以下反論する。
まず、被告のC・I・F条件に関しての右主張は、シー・アイ・エフ統一国際規則6所有権の「物品所有権移転の時期は「規則20」2項に規定した場合を除き、売主がその書類を買主の占有に移転したそのときである」とした規定に反する。また、被告主張のインコタームス規則の本文にも、右のような遡及の規定はない。
仮に、輸出商品の所有権が、船積日に遡及するとしても、船荷証券等の引渡しを買主が受けない限り、遡及しえないのであるから、右所有権移転時期は船積時ではなく、停止条件の成就日たる右書類受領日である。
次に、F・O・B条件であつても、原
⑧ (2)
昭和五六年三月期
項目
金額(円)
摘要
①
申告所得金額
(加算金額)
二九二、九三三、〇七七
1の(二)の(2)の①
②
売上げの計上漏れ
五四五、六四七、八六六
2の(二)の(2)のア参照
③
受取手数料の計上漏れ
一、七三七、五一二
2の(二)の(2)のイ参照
④
販売手数料の計上漏れ
六、三〇〇、九四三
2の(二)の(2)のウ参照
⑤
AL-AIamianに対する売上げの計上漏れ
三六、八八七、三四二
2の(二)の(2)のエ参照
⑥
IC部品の売上げの計上漏れ
七九四、〇〇〇
2の(二)の(2)のオ参照
⑦
IC部品の棚卸資産の計上漏れ
二三六、〇〇〇
2の(二)の(2)のカ参照
⑧
価格変動準備金の積立限度超過額
六、一九二、二三三
2の(二)の(2)のキ参照
⑨
売上原価の過大計上
二八六、三〇八、一九二
⑬の売上原価
2の(二)の(2)のク参照
⑩
加算金額計
(②+③+④+⑤+⑥+⑦+⑧+⑨)
(減算金額)
八八四、一〇四、〇八八
⑪
売上原価の計上漏れ
四七八、六四七、二三一
②の売上原価
2の(二)の(2)のケ参照
⑫
未納事業税の収容
二、七〇〇、〇六〇
2の(二)の(2)のコ参照
⑬
売上げの過大計上
三〇七、六七九、四七八
⑨の売上げ
2の(二)の(2)のサ参照
⑭
受取手数料の過大計上
八三二、七六三
2の(二)の(2)のシ参照
⑮
価格変動準備金戻入益の過大計上
四、一八五、四四七
2の(二)の(2)のス参照
⑯
減算金額計(⑪+⑫+⑬+⑭+⑮)
七九四、〇四四、九七九
⑰
所得金額(①+⑩?⑯)
三八二、九九二、一八六
1の(四)の(2)の①
告の場合はもとより、一般の場合においても、船荷証券の名宛人は、売主又はその指図人とされている今日では、その実質は、C・I・F条件と異なるところはなく、価格条件に運賃・海上保険料を含まない点に差異があるにすぎない。船荷証券が発行されている限り、その書類の引渡しにより、輸出商品の所有権が移転するものと解すべきである。
第三 証拠〈省略〉
理由
一争いのない事実
請求原因1の事実、同2のうちの(一)(二)の事実、(三)(1)の事実及び同(2)の事実のうち原告が、輸出商品の販売につき船荷証券を取引銀行に引き渡した日をもつて継続的に、その収益計上をしてきたこと、被告の主張1(一)ないし(四)の事実及び同(五)の事実のうち被告が再々更正処分をしたこと並びに同2(二)(2)ウエオカの事実は当事者間に争いがない。
二本件輸出取引による販売の収益を計上すべき基準について
1 商品等の販売に関する収益の帰属すべき事業年度については、法人税法及びその関係法令上直接の規定はなく、法人税法二二条四項は、損益の計算について一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきものと規定するにとどまつている。ところで、今日のように複雑化した経済社会においては、信用取引が支配的で、多数の債権債務が同時に併存し、いわゆる現金主義によつていては企業の期間損益を正確に把握しえないこと、企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから一般に公正妥当と認められるところを要約した企業会計規則には、損益の計算につき原則としていわゆる発生主義を採用すべきものと定め(同第二損益計算書原則一A)、商品の売上高については実現主義の原則に従うことと定めている(同三B)こと、法人税法についてはすべての納税者を画一的かつ統一的に扱う必要があり、そのため課税の公平、明瞭、確実、普遍等の要求があることからすると、収益の認識基準については、客観的にみて収益実現の可能性が確実になつたものと認められるような状態が存し、かつ会計処理の基準からみても、会計事実として確認記帳するに適したものであるかどうかを基準にして判断すべきであり、とりわけ、商品等の販売に関しての収益の認識基準は、原則として商品等の引渡しを基準とするのが相当である(法人税法基本通達二―一―一参照。)。
ところで、引渡しを原則的な認識基準としても、引渡しの概念自体も必ずしも明瞭かつ画一的でないのみならず、原告のような貿易業者の対外的取引は、多面的、複雑、多様性に富んでいるので、引渡しの有無の判定に際しては取引形態、引渡手続、契約条件などの貿易の実態と慣習、会計慣行等をまず検討しなければならない。
2 〈証拠〉によると、インコタームスに採択された貿易慣習の定型となる貿易条件のうちF・O・B、C・&・F及びC・I・F条件の内容は次のとおりである。
(一) F・O・B条件
同条件は、商品の売主が買主の指定した船舶に売主の費用と危険をもつて約定品を船積みする義務を負うが、以後一切の負担から免れる意味の売買契約を内容とする。そして、同売主には、本船から船荷証券を取得し買主に提供する当然の義務はないとの前提に立ちながら、同売主は買主の要請により、買主が船荷証券を取得できるよう、助力しなければならないとする。そして、船荷証券が買主に引渡された場合における約定品の所有権移転の効果は、約定品の本船への引渡しの時に遡及するものとしている。
(二) C・&・F条件
同条件は、輸出港における船積み渡しの価格に外国仕向地までの運賃を特に加算した複合価格採算による売買契約を内容とする。これは、C・I・F条件の構成要素から特に保険に関する要素を除外したもので、本質的にはC・I・F条件と同一である。この条件における売主と買主との危険負担の限界は、約定品の船積み時である。そして、契約の履行としての引渡しもこれに対する代金の支払も、必ず船積書類(その中心となるものに船荷証券がある。)の授受によつて履践される。
(三) C・I・F条件
同条件は、目的物品の船積港における輸出原価に、仕向地までの保険料と運賃を加算した複合価格で取り決められ、売主は、自己の費用と危険で約定品を船積みし、それに保険を付け、船積書類を整えてこれを買主に提供することにより、また買主は、その船積み以降の危険を負担し船積書類と引換えに代金を支払うことにより、それぞれの義務を履行することを内容とする条件である。同条件では、通常は、船荷証券が売主の指図式で発行され、その場合は当該約定品の所有権は、「買主が船積書類を適法に提供する」という条件付きで買主に移転し、船積の右条件の成就により、船積みの時に遡及して所有権が移転することとされている。また、危険負担も、約定品が輸出地で船積みされた時に、売主から買主に危険が移転するとされる。さらに、この条件では、売買の目的物の引渡は船積書類の提供によつてのみなされ、売主はその目的物を買主に引渡すべき義務を負わないものであり、同時に、現実の引渡とではなしに船積書類の提供と買主の支払義務が同時履行の関係にある。
3 〈証拠〉を総合すると、今日の貿易取引においてほとんどの場合いわゆる信用状の授受が行われていること、貿易等の実務のガイドラインとして普遍的に利用されている荷為替信用状に関する統一規則および慣例によると、信用状には取消可能信用状と取消不能信用状があるとされ、前者は、発行銀行がいつでも受益者に対する事前通知なしに変更又は取消しを行うことができるとされ、後者は一定の書類が呈示されかつ信用条件が充足されていれば発行銀行が金銭の支払を確約するものとされていること、原告会社を含め、一般には取消不能信用状によつて貿易取引が行われていること、その他信用状によらないDF・DA手形の決済による取引もあり、原告会社においても右による取引を行つていることの各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
4 〈証拠〉によると、輸出取引における収益計上の基準は、①出庫基準(商品等の通関及び船積みいかんにかかわらず出庫により収益を計上するもの)、②通関基準(商品等の出庫された時点においては積送品勘定に計上し、通関日すなわち輸出申告書の年月日に収益を計上するもの)、③船積日基準(商品等が出庫されたときは積送品勘定で処理し、船積みの日すなわち船荷証券の年月日に収益を計上するもの)、④船荷証券等作成日基準(商品の船積み等を完了し、船荷証券等を入手した段階で当該船荷証券等作成日に輸出売上げの収益を計上するもの)、⑤為替取組日基準(商品の船積み等を完了し、船荷証券等を入手後、輸出為替の買取依頼等のため為替銀行に輸出手形を持ち込み、買取実行日又は取立日をもつて輸出売上げの収益を計上するもの)、⑥揚地条件受渡し日基準(定型的貿易条件の揚地条件の各受渡し日をもつて輸出売上げの収益を計上するもの)などがあるとされていること、右③の船積日基準が、輸出取引の収益計上基準の鉄則であるかのように実務上は広く一般的に採用されていること(その理由としては、おおむね①信用状を基礎とした国際間の取引の普及により、輸出者が輸出代金回収危険から解放され、輸出為替買取りによる運転資金の調達が可能となつたこと、②信用状を基礎としない国際間取引にあつては輸出保険制度の利用によつて輸出代金回収の危険、為替銀行の輸出為替買取についての難色が緩和されるにいたつたこと、③海上保険制度を中心とする遠距離輸送危険の回避などがあげられる。)、企業会計上は、F・O・B条件、C・I・F条件(C・&・F条件はC・I・F条件の系列にはいる。)によつて収益計上基準を区別する必要も実益もないとされること(その理由は、右各条件は販売価格の建て方を定めたものであつて収益計上の基準である引渡し基準を定めたものでないことにある。)の各事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。
5 そこで、本件輸出取引の収益計上基準である引渡し時期について検討する。
(一) 引渡し時期として考えられる時期は、おおむね輸出商品の現実の移転に即してみると、出庫日、通関日、船積日(被告主張)、指定港到着証明日、先方指定場所受領日、検収日、為替取組日(原告主張)等が考えられるが、本件では原告は為替取組日基準を、被告は船積日基準をそれぞれ一般に公正妥当と認められる会計処理の基準として主張しているので以下検討する。
(二) まず、被告主張の船積日基準につき検討する。
(1) 輸出取引の場合は、売主としては商品を本船に積込んだ時に商品の現実的な管理支配をなしえない状態に至る。他方、信用状と保険制度の発達普及により、実際上売主は商品代金回収の危険性から解放されているので、売主は商品の本船積込みにより商品代金の取得が確実になつたと客観的に認められる状態に至つたものといえる。
してみると、商品の本船積込み時にその引き渡しがあつたとみる船積日基準は、占有移転の時期からみても、また収益実現の時期に関する損益計算原則としての権利実現主義の観点からみても妥当な基準といえる。
⑨
売上年月日
売上先
品名
売上金額(円)
昭五五・四・一〇
HOSODA
九〇七五
二四〇、〇〇〇
昭五五・八・四
HOSODA
九〇七五
四八、〇〇〇
昭五五・一二・二〇
HK・SHAH
SPZ〇八T
一一五、〇〇〇
昭五六・三・一一
SONORAC
SP二〇三T
三九一、〇〇〇
合計
-
-
七九四、〇〇〇
⑩
仕入年月日
品名
仕入金額(円)
昭五六・三・二五
昭五六・三・二五
SP三〇七T
SP四〇一T
一一八、〇〇〇
一一八、〇〇〇
合計
-
二三六、〇〇〇
(2) 原告は前記貿易条件としてのF・O・B、C・&・F、C・I・F条件により輸出取引をしているので、同条件下の本件輸出取引においても船積日基準が妥当なものかにつき検討するに、
まず、F・O・B条件の場合は、商品等を本船に船積みした時点をもつてその所有権及び危険負担がすべて売主から買主に移転するとされ、したがつて収益計上基準を船積日に求めることは妥当である。しかし、船荷証券が提供された場合には、以下のC・I・F条件等と同様となる。すなわち、C・I・F条件(C・&・F条件はC・I・F条件の系列であるから、以下特別の理由のない限り、C・I・F条件で代用する。)においては、危険負担は本船に商品等を船積みした時点で売主から買主に移転するとされ、F・O・B条件と異なるところはなく、また商品等の所有権は船荷証券表彰が買主に提供されたときに買主に移転し、その効果は船積みのときに遡るとされる。したがつて、いわゆる権利確定主義を厳格に適用すると、船荷証券が買主に到着したことを確認した時点に船積み時に遡及して収益を計上することになるが、原告のような貿易取引において、右のような所有権移転を確認した時点に船積み時に遡及して収益計上することは会計処理上困難なことが多く、原被告においてもこのような処理を主張していないところである。売主としては、会計手続上も船積みをもつて売上げを記帳することが望しいこととして実務上広く採用されていることからすると、F・O・B条件(通常は船荷証券が発行されるが、その場合は特に)、C・I・F条件の如何にかかわらず、船積日をもつて収益計上の基準とすることは必ずしも不当とすべきものとはいえない。
(3) 次に、企業会計原則によると、商品等の売上げについては、実現主義の原則にしたがい、売上高は商品等の販売によつて実現したものに限るとされている(同第二損益計算書原則三B本文)。
ところで、原告のような貿易取引においては、国内取引と違い、海上運送の方法による、政治的、経済的、社会的な諸条件が異なる海外市場との取引であるから、販売代金の回収につき船積みをもつて直ちに収益を実現したといえるか問題となる。しかしながら、前記認定のとおり(理由欄二3参照)、原告の輸出取引のほとんどは、信用状ないし保険制度等により、売主は、輸出商品等の代金回収の危険性から解放されているので、船積日をもつて、収益が実現したということを妨げない。
(4) 前記認定のとおり(理由欄二3参照)、輸出取引における収益計上基準については、船積日基準が実務上では公正妥当な基準として広く一般的に採用されており、このことは会計慣行としても尊重すべきである。
(5) 最後に、船積日基準は取引日の客観性が担保され、恣意性の入る余地が少い。すなわち〈証拠〉によると、通常、船会社等の運送業者に輸出商品を引き渡すと、船積日等を記載した船荷証券の交付を受けるが、船荷証券の日付けが一般に船積完了日と認められていること、船荷証券は、船積確認の重要書類として理解されていることの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、船荷証券により船積み日を確定することには十分な客観性が存し、公正妥当な会計処理に適うものということができる。
この点、原告主張の荷為替取組日基準によると、売主は船荷証券を受領しながら荷為替取組を故意に遅らせることによつて期間損益の調整が可能となり恣意性の入る余地が大きくなるといわなければならない。現に〈証拠〉を総合すると、原告会社においては一船の書類件数が多い場合には取引金額の多いものから銀行に持ち込んで荷為替を取り組んでいる事情が窺われるのである。してみると被告主張の船積日基準の方が原告主張の為替取組日基準よりはるかに客観性を担保しているものといわなければならない。もつとも、船積日基準によつた場合でも、船積完了日と船荷証券の日付けとが合致しないことが考えられるが、右はごく稀に生じるにすぎず船積日基準の客観性を否定するには至らない。
(6) 以上からすると、被告主張の船積日基準は実務上一般に採用されている公正妥当な会計処理基準ということができる。
(三) 次に、原告主張の為替取組日基準について検討する。
(1) 原告は、船荷証券の処分証券性(商法七七六条、五七三条)、受戻証券性(同法七七六条、五八四条)、物権的効力(同法七七六条、五七五条)等から船荷証券は運送品を表彰するものであることを根拠に、輸出者が船荷証券を保有する限りは引渡しはいまだ完了したとはいえず、荷為替を取り組み原告の取引銀行等に引き渡すことにより、はじめて輸出商品に対する所持、支配を失うに至るものであると主張する。
しかしながら、船荷証券は運送品引渡請求権を表彰しているにすぎないのであつて、船荷証券即商品と解しえないことは当然である。たとえば、商品等の買主が、船荷証券の延着等のため船荷証券の入手前に到着した商品等を船荷証券と引き換えなしで運送業者から引渡しを受けることがありうるのである(古くから仮渡し、保証渡しの商慣習が存在することが認められている。大審院昭和四年(オ)第一〇〇六号・同五年六月一八日判決法律新聞三一三九号四頁参照)。しかも、会計上の実現主義を厳格につらぬくと、船積日、為替取組日いずれの日においても、輸入者である買主は、時間的には船荷証券等の船積書類を入手していないのであるから、収益が未実現と解されないわけでもなく、また買主が商品等の引渡を受けた日を基準とすると、売主が容易に右基準日を知ることができない不便がある。また、前記のとおり、貿易三条件のいずれの場合においても、商品の本船積込み時を基準として買手側にその所有権及び危険負担が移るとされている(原告も前記貿易三条件によつていることは前記のとおりである。)のであるから、為替取組日基準は右の所有権移転の基準日及び危険負担の移転の時期に合わない基準といわざるをえない。
そして売主は、運送人に商品を引渡すことにより、商品に対する現実の所持・支配を失い、これに代つて運送人が現実の所持・支配を得るものであり、原告が主張するように売主が荷為替手形を銀行に売り渡し、船荷証券を銀行に引き渡すことにより、はじめて輸出商品に対する所持・支配を失うものではないことは明らかである。却つて売主は、運送人に商品を引き渡すことにより、売買契約上の本来的給付義務のうち事実行為の部分を終了し、その後における買主に対する引渡は、あげて運送人の処理に委ねられることとなるのである。
(2) 為替取組日基準は、むしろ、現金(又はこれに代る有価証券)の収支に基づいて収益及び費用を計上する企業会計原則上の現金主義もしくは回収主義による売上収益計上の基準ともいうべきものと解されるので、損益計算原則としての発生主義、権利確定主義を採用した現行の会計処理基準に適合しない難点があることは否定できない。
また、前述のとおり、輸出取引の場合には、売主は商品の本船積込みにより商品の引き渡しが実質的に完了し、他方商品代金の収益実現が確実なものとなつたとみられている。さらに、売主は商品の本船積込みにより船会社から指図式の船荷証券を取得するのが通例とされているが、売主はこれを直ちに取引銀行で取り組まずに他に譲渡し現金化することも実務上行われているところである。しかし、為替取組日基準によると、荷為替を取引銀行で取り組まない限り売上収益を計上しないとするもので輸出取引の実態、収益実現の実際の時期にも反するものといわざるをえない。また、販売商品の計上についてみても、本船積込みにより既に売主の現実の管理支配から離脱した商品についてまでも為替取組日までは売上商品に計上されないこととなり、公正妥当な会計処理基準にそぐわないものといわざるをえない。
(3) 荷為替を銀行で取り組む行為は、売主と買主間の契約における実際の商品の引き渡しとは異なつて売主が比較的自由に決定できるのであり、売主はこれを利用して期間損益の調整が可能となり恣意的操作の入る余地のあることは否定できないところである。また、そのために期間損益を正確に表示していない場合が生じる。したがつて、為替取組日基準はこの点においても公正妥当な会計処理基準として採用できない。
(4) 次に、原告は、企業会計原則に定める保守主義、更に実現主義の考え方からすると、船積日基準より為替取組日基準の方がより販売基準として適している旨主張する。
しかしながら、原告の取引を含め今日では輸出取引は、前述のとおり、信用状及び種々の保険制度等により代金回収の危険性は相当の確率をもつて回避されているので、船積日基準が必ずしも保守主義・実現主義に反するとはいえないこと、他方、為替取組日基準も保守主義、実現主義に適するものではないことは前述のとおりである。しかも、保守主義、実現主義を厳格につらぬくならば、買主が為替手形を引き受けるのを確認して始めて収益を計上するというきわめて迂遠な方法をとらざるをえないが、右が会計実務に適さないことは明らかであり、為替取組日基準の方が適しているとはいえない。
(5) さらに、原告は、外貨建てで取引をしていることから、法人税基本通達一三の二―二―一(昭和五四年直法二―三一改正後のもの)によると船積日ごとに電信売買相場を調べなければならないがこれはすこぶる煩雑であり、再々更正処分のように電信売買相場の仲値の評価時期を事業年度終了の時としたことは被告の主張自体に矛盾を来たし同通達にも反する旨主張する。
そこで、検討するに、電信売買相場を調査する面で船積日基準と荷為替取組日基準のいずれがより煩雑であるかはたやすく判断できない。また法人税法施行令によると、短期外貨建債権の換算方法は、取得時換算法又は期末時換算法のうちいずれか法人が選定した方法によるものとされ(同令一三九条の三第一項)、法人が右換算方法を選定しなかつた場合には、期末時換算法により換算する(同令一三九条の七)とされているところ、弁論の全趣旨によれば、原告が右二つの換算方法のうちいずれかを選定したことは認められないのであるから、原告の場合には期末時換算方法により換算することとなる。そうすると、同令一三九条の三第一項一号ロにより、当該事業年度終了の時における外国為替の売買相場により円に換算することとなるが、右売買相場の具体的詳細についてはなんら規定がないのであるから、本件再々更正処分において前記基本通達一三の二―一―四に基づき電信売買相場の仲値によつたことには違法はない。要するに、原告の主張は、取得時換算法を採用したことを前提にしたもので、採用できない。
(6) また、原告は、現実の船積日を確認することが困難であること、船荷証券が発行されていると同証券が重要であることからして、船積日基準は不合理と主張する。
しかしながら船積日は船荷証券の発行日により容易に確認できるし、船荷証券が重要であつてもそれは商品等そのものではないことからすると、原告の右主張は失当である。
(四) もとより公正妥当な会計処理基準は必ずしも一つに厳格に限定する必要はなく、他に適当な基準がある場合には複数存在することも認められるべきであるが、以上を総合検討すると、為替取組日基準は、現行会計処理基準からみても、また一般に公正妥当と認められる会計処理基準の観点からみても、さらに輸出取引の実態・慣行、引渡手続、契約条件等からみても難点があり、事務上も一般に採用されていない基準といわざるをえない。
これに比べて収益の計上時期についての引渡基準において、引渡の時期を船積み日とすることは、本件輸出取引の実態、慣行、引渡手続、契約条件や、会計慣行からみて、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に合致するものということができる。そして、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準という点において荷為替取組日基準が船積日基準よりも優れているとか、或いはこれに代り得るものであるということはできない。
そうすると、本件輸出販売における収益認識基準としては船積日基準によることが相当である。
三本件各処分の適法性
〈証拠〉によれば、船積日基準により計算した原告の本件係争各事業年度の所得金額及び原告の同族会社としての特別税率の計算根拠、計算過程、計算結果に誤りはないことが認められるので、本件各処分は適法である。
四結 論
よつて、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)
別表1、2 課税処分の経緯 <省略>
別表3 昭和55年3月期末船積分<省略>
別表4 昭和56年3月期末船積分<省略>
別表5 昭和54年3月期末船積分<省略>
別表6、7、8、9 昭和54年分<省略>
別表10、11、12、13 昭和55年分<省略>
別表14 昭和56年分<省略>